埼玉朝鮮学園に対する県補助金不支給に関する共同声明

 2010年度に埼玉朝鮮学園への県補助金が停止されて、10年が経過しようとしています。

 去る2019年2月14日、県学事課は、2010年度より問題とされてきた埼玉朝鮮学園の財務の健全性が確認された、これが不支給の理由となることは無い、と学園側に伝えてきました。しかし、学事課によれば、それでもなお、①「拉致問題等が解決されるまで予算の執行を留保すべき」とする県議会の附帯決議(2012.3.19予算特別委員会)があること、②「朝鮮総聯の朝鮮学校への影響力や、朝鮮総聯と朝鮮学校の関連性についての懸念」(2018.6.27県議会における知事答弁)があること、という二つの理由から、2019年度の予算にも埼玉朝鮮学園に対する補助金分の計上はしないとのことでした。

 私たちは、県が2010年度から延々と確認できないとしてきた財務の健全性を遂に認めたことについては、そもそも当然のことながらも一歩前進と捉えています。

 しかし、依然として「拉致問題」を補助金不支給の理由にし、昨年から突如として、新たに朝鮮学校設立当時より一貫してこれを支えてきた民族団体との関係性を不支給の理由に付け加えてきたことには、大きな憤りを覚えざるを得ません。

 そもそも、「拉致問題」を理由に補助金を不支給にするというのは、日本国内に住む人々を朝鮮民主主義人民共和国と何らかの関係があるという理由だけで差別的に取り扱ってもよいという考え方に基づくものです。これは個々の人や団体の活動には何の問題もなくとも、ただその人や団体の民族・出自などの属性にだけ着目して差別するという考え方です。アメリカ人だから、被差別部落出身者だから、女性だからという理由だけで差別するのと同じ考え方です。在日朝鮮人の学校だからという理由に基づいて、県が補助金を支給しないことは、日本国憲法14条で禁止された典型的な差別であり、憲法違反です。県民の代表者から構成される県議会が、このような明らかな差別を行うことを公然と附帯決議によって表明することは極めて恥ずべきものであり、厳しく非難されてしかるべきものです。

 それゆえ、埼玉弁護士会は、拉致問題の未解決という理由から補助金を出さないことについて「積極的に差別を助長しかねない極めて重大な人権侵害」であると、県に対し警告を発しています(2015.11.25)。また、国連の社会権規約委員会の対日審査(2013.5)でも、国側が「高校授業料無償化」制度からの朝鮮高校排除の理由に拉致問題を挙げていたことに対して、社会権規約委員会の委員から「彼らを排除するという理由にはならない」と糾弾され、結果的に国は朝鮮高校を無償化の対象にするように差別是正勧告を受けました。

 知事は附帯決議に法的拘束力はないとしています。このような恥ずべき附帯決議を考慮して、補助金の不支給措置を継続することはそれ自体厳しく非難されるべきものです。

 また、県が突如として持ち出してきた「朝鮮総聯の朝鮮学校への影響力や、朝鮮総聯と朝鮮学校の関連性についての懸念」という理由は、「朝鮮高校授業料無償化」裁判において、国側が「朝鮮総聯と朝鮮学校の関係性が、教育基本法で禁じる『不当な支配』に当たらないことの十分な確証が得られない」と主張していることに目をつけたものでしょう。

 しかし、このような主張は、教育基本法16条1項の「不当な支配」の禁止の趣旨を捻じ曲げるものです。第一に、私立学校は、建学の精神に基づき独自の校風をもって、行政的な介入から自主的に運営されるべきものです(私立学校法1条)。民族学校のみならず、一般の私立学校も、宗教団体等、特定の団体などを母体として設立され、それとの密接な関わりを維持することによって、建学の精神に基づく自主的な教育が可能になります。民族学校や宗教系私立学校が設立母体とも言える団体と密接な関係にあることは、一般的に教育基本法の禁止する「不当な支配」の問題とされるようなことではありません。現に、埼玉朝鮮学園は、朝鮮総聯と密接な関係にあることは事実ですが、このことは長年にわたって県から問題にされることはありませんでした。それを突如として問題にするということは、補助金の停止という結論ありきで理由を後付けしているとしか思えません。

 第二に、そもそも「不当な支配」の禁止とは、行政による学校への不当な介入を禁止することを主たる狙いとして教育基本法に定められているものです。行政当局が、民族学校と民族団体との関係性や、そこから派生して、人事、教育内容のあり方などを問題視し、差別的な取り扱いをすることは、それこそがまさに教育基本法の禁じる「不当な支配」に該当するものと理解されなければなりません。

 このように朝鮮学校と朝鮮総聯との関係性を「不当な支配」の禁止との関係で問題視することは、法の趣旨をないがしろにするものであり、それ自体が朝鮮学校への差別的意図の現れと見るべきものです。やはり補助金の不支給は憲法14条違反だと言わざるをえません。

 県が掲げる「埼玉県多文化共生推進プラン」では、「日本人と外国人住民の双方がそれぞれの文化的、宗教的背景などの立場を理解し、共存、共栄を図っていく『多文化共生』の考え方が重要」とされています。埼玉県が今一度この立場に立ち返り、朝鮮学校及びその子どもたちへの不当な差別を一日も早く撤回し、補助金の支給を再開することを強く求めます。

  2019年3月18日

  学校法人埼玉朝鮮学園 理事長 李昌勇
  外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク・埼玉 代表 斎藤紀代美
  誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会
   共同代表 磯田三津子(埼玉大学准教授)
        猪瀬浩平(明治学院大学教授・NPO法人のらんど代表理事)
        内田淳(さいたま市民活動サポートセンター利用者の会 共同代表)
        小田原琳(東京外国語大学准教授)
        中川律(埼玉大学准教授)
        渡辺雅之(大東文化大学准教授)

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