よくある質問

朝鮮学校への補助金停止問題Q&A

2021年2月19日更新

日本の敗戦後、在日朝鮮人がみずからの言葉や文化を取り戻すために自主的に設立した学校です。日本の学校と同じ6・3・3の学制を組む朝鮮学校は、全国各地にあり、埼玉県には、さいたま市に幼・小・中の子どもたちが通う埼玉朝鮮初中級学校があり、約200人の子どもたちがそこで学んでいます。現在では主に在日4、5世の子どもたちが通う同校では、朝鮮(南北含め)の歴史、文化そして言語を、また、日本の学習指導要領も参考にしながら、日本語、算数(数学)、理科、さらには日本の地理や歴史も学んでいます。

法的には学校教育法第1条で定められている「学校」(いわゆる1条校)としてではなく「各種学校」(第134条)の認可を受けています。1条校の場合、日本の検定教科書を使わなければいけない(第34条等)、日本の学習指導要領に規定するカリキュラムを実施しなければならない(施行規則第52条等)など、民族教育をするには制約があり、また専修学校の場合も「我が国に居住する外国人を専ら対象とするものを除く」(第124条)という規定があるため、朝鮮学校をはじめほとんどの外国人学校は、現法制度のもとでは自動車教習所などと同じ「各種学校」の地位に甘んじざるを得ない状態なのです。

地方自治体レベルでは学校への経常費補助や保護者への補助など名目は様々ですが、多くの自治体が、教育助成を行ってきました。しかし、日本政府は1条校ではないとの理由で震災時などの特例を除いては助成の対象としてきませんでした。その結果、行政からの教育助成は日本の学校と比べて極めて低いレベルにとどまっていました。

これは納税の義務が在日朝鮮人をはじめ外国籍住民にも同様に課せられていることひとつ考えてみてもおかしなことです。

さらに、2010年以降、埼玉県や東京都など朝鮮学校への補助金を止める自治体が出てくるという事態になっています。

発端は、「拉致問題」を理由に朝鮮学校への補助に反対する団体からの要請を受け、上田清司知事が朝鮮学校の教育内容を調査して補助金(「私立学校運営費補助金」)支給を判断するとしたことです。この調査に学校は誠実に応え、その調査を踏まえた県による「教育内容や財務内容の改善についての要請」(2011.2.23)に対する学校からの回答(2011.3.11)もなされます。その結果、教育内容についての学校側の回答は、後に上田知事が県議会で答弁(2011.6.24)しているように、県も「それなりに了承できる内容」としていました。

しかし、県は2010年度末ぎりぎりになって、急遽、同年度の補助金を支給しないとしました。

上田知事は、その理由を「学校の校地が整理回収機構(RCC)から仮差押えを受けております。仮差押えの解除に向けて整理回収機構との和解協議を進めているとの回答でしたが、いまだ和解成立には至っておりません。(中略)今後の補助金の交付については、和解成立ということができて、経営の健全性が確認できれば再開できる条件が整うということになります」(2011.6.24答弁)としました。

学校の債務は、私立学校の半分にも到底及ばない補助金しか支給されないことによる長年に亘る学校運営の困難さ故のものであり、「経営の健全性」のためには、むしろ補助金の引き上げが必要です。ただでさえ低額に抑えられている補助金を無くしながら「経営の健全性」を云々する行為は、首を絞めながらしっかり息をしろと言うようなものです。

整理回収機構(RCC)との和解が2011年9月末に決まり、2012年1月には、学校に理解のある在日朝鮮人らから無利息で借り入れたお金でRCCへの返済(約8600万円)が完了、仮差押えも解除されました。

支給が止められた直後、県の学事課から学校当事者や支援者らに、RCC問題さえ解決すれば一日も早く支給をしたいという話が何度もなされてきた経緯もあり、これで、支給が再開されるかと関係者は期待しました。
  
しかし、上田知事が今度はこのRCCへの返済のための借入金について「借りたことには変わりがない」(2012年3月28日定例会見)と言い捨て、支給は再開されませんでした。

借金がある県下の学校は朝鮮学校だけではないこと、また、それを理由に補助金の支給が止められている学校は他にないということを学事課も認めています。RCCへの返済のため集められた借入金までも新たに問題化するというのは難癖以外の何ものでもありません。

なお、この借入金についても現在はすべて返済されています。しかし、未だ補助金は止められたままとなっています。

2012 年度の補助金について県議会は、一般会計としての予算計上を承認するに当たり、「学校側が県からの要請にしっかりと応えるとともに、拉致問題等が解決されるまで予算の執行を留保すべき」という附帯決議を付けました(2012.3.19 予算特別委員会)。結果、2010、2011 年度と同様、予算計上されながらも支給はされませんでした。

そして、2013 年度予算に至っては、「日本人拉致問題に何ら進展がなく、度重なるミサイル発射や核実験など、もう我慢にも限界がある。国民感情や県議会の決議もある。総合的に考えて計上しないことを決めた」(上田知事。2013.2.13 定例会見において)として予算計上すらされないこととなりました。当初は教育内容や財政問題を云々しながら、最後には学校関係者の努力ではどうしようもない「拉致問題の進展」等を以て、子どもたちを差別的に扱う「理由」としたのです。

はい。多数、上がっています。

日本弁護士連合会は、1998 年、2008 年と二度にわたって、教育助成等における差別は「重大な人権侵害」、「子どもの権利条約など関係条約違反の状態が継続している」(1998 年)、「学習権を侵害」(2008 年)としてその速やかなる是正を勧告してきました。これは埼玉県などが補助金停止をしていない状況下で出されたものですが、その補助金額が日本の学校へのそれと比べて少額すぎることを問題とし、是正を促したものです。

埼玉弁護士会からは県の補助金停止問題に対し、2013 年に会長声明が出され(3 月13 日)、2015 年には、埼玉朝鮮学園からの人権救済申立を受け調査、検討した結果として県への「警告」が出されました(11 月25日)。朝鮮学校の処遇に関して「警告」が出されたのは全国の弁護士会を含め初めての極めて異例のことであり、この問題がいかに深刻な人権侵害を引き起こしているかということを如実に示していると言えます。

また、この埼玉を始めとする各地で、補助金停止に反対する運動が「高校無償化」からの排除反対運動とともに多くの日本人の市民によって取り組まれています。

さらに、この問題に対しては、韓国の市民社会でも支援の動きが起きています。

東日本大震災で大変な被害を受けた宮城や福島の朝鮮学校を支援するためにチャリティーコンサートを重ねてきた「モンダンヨンピル」など多くの市民運動団体、労働組合、宗教団体などが参加する「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」は2015 年から朝鮮学校への差別反対を訴え、ソウルにある日本大使館前でのスタンディングデモなどの活動を展開しています。

拉致被害者家族連絡会の初代代表で2020年6月に亡くなった横田滋さん(めぐみさんの父親)は、インタビューに基づく著作『めぐみへの遺言』(2012年、幻冬舎)でこう語っています。「教育の内容がおかしいから直せというのは必要だが、合法的に日本に住んでいる子供の人権を考えたら、拉致があるから無償化反対というのは良くない。(略)拉致を理由に朝鮮学校に補助金を出さないのは筋違いだと思います。単なるいやがらせです」。同連絡会の初代事務局長の蓮池透さんも「『救い出してくれ』の願いはあっという間に『北朝鮮憎し』に変換され、朝鮮学校の高校無償化からの除外といった八つ当たり以外の何ものでもない政策がまかり通る。責められるべきではないとわきまえていたはずの在日コリアンへのヘイトスピーチが街中で横行する」と語っています(神奈川新聞2017年10月11日電子版)。掻き消されてしまいがちですがこのような理性的な意見は拉致被害者の家族の中にも存在しているのです。

「高校無償化」制度の朝鮮学校不指定が決定されたのが2013年2月のことですが、その直後の5月にジュネーブで開かれた国連・社会権規約委員会による対日審査では、日本政府の代表が朝鮮学校不指定の理由として述べた「拉致問題の進展がない」という発言に対して、「朝鮮学校に通っている子どもたちにはなんの関係もない」「彼らを排除するという理由にはならない」という反駁がすかさず委員から出されました。そして、審査の結果として出された同委員会の総括所見において「高校無償化」における朝鮮学校排除は「差別」だとして、同制度の適用を求める勧告が出されました。

「拉致問題」という国家間の問題をもって子どもたちの学ぶ権利を侵害することが、国際的に通用するわけがないことを分かってか、日本政府もさすがに翌2014年8月の人種差別撤廃(条約)委員会による対日審査では「拉致問題」を理由には挙げませんでした。しかし、朝鮮学校の処遇差別が引き続き行われていることを問題視した同委員会からは、「高校無償化」適用排除、さらには一部の自治体による補助金停止の動きに懸念が表明され、その是正を求める勧告が出されました。

その後も、2018年8月、人種差別撤廃委員会において、また2019年1月、子どもの権利(条約)委員会において「高校無償化」排除等の朝鮮学校への処遇差別が取り上げられ、是正勧告がたて続けに出されています。

朝鮮学校への差別はこれらの条約に定める差別の禁止、アイデンティティの尊重といった条項に抵触すると言っているのです。

このまま「拉致問題」等を根拠に、朝鮮学校を差別し続けることは、埼玉スタジアムに垂らされた「JAPANESE ONLY」(2014年)という横断幕に続いて、世界に向けて埼玉の恥をさらすことになるのではないでしょうか。

県もさすがに「拉致問題」のみを"理由"に朝鮮学校の補助金を停止するのはまずいと考えていたのでしょうか。RCCとの問題(Q4、Q5参照)が解決してからも、県の学事課は、まるでアラ捜しをするかのごとく、重箱の隅をつつくようなチェックを朝鮮学園に対して執拗に繰り返しては「まだ財務の健全性が確認されていない」と言ってこれを不支給の理由の一番に挙げてきました。しかし、それへの批判の高まりを受けてか、この点については最近になってやっと財務の健全性が確認されたと学園側に伝えるに至りました(2019.2.14)。

だが一方で、2018年からは、これまでなかった「朝鮮総連の朝鮮学校への影響力や、朝鮮総連と朝鮮学校の関連性についての懸念」(2018.6.27県議会における上田知事答弁)というものを不支給理由に加えだしました。

「財務の健全性の確認」という理由は何時までも使えない、「拉致問題等が解決されるまで予算の執行を留保すべき」とする附帯決議(Q6)だけでは心許ないと考えたのか、県は、朝鮮高校「無償化」裁判で、政府が「朝鮮総連と朝鮮学校の関係性が、教育基本法で禁じる『不当な支配』に当たらないことの十分な確証が得られない」と主張していることに目をつけ、これを補助金停止の理由に加えてきたのです。

同じ附帯決議でも、知事特別秘書に対する高額給料支払い問題において、県議会予算特別委員会が給与条例主義に反する支給であるとした附帯決議(2018.3)に対しては、知事はこれを無視しました。その一方で「拉致問題の進展」を教育における処遇差別の理由にするという、それ自体たいへん問題のある附帯決議については、これを尊重しなければならないというのはあまりにご都合主義というほかありません。

また、朝鮮学校が、その母体ともいえる民族団体と密接な関係性を有するのは、その他の民族学校と民族団体の関係性や、多くの私立学校がその運営母体である宗教団体等と密接な関係性を有していることに鑑みても、特段おかしなことでもなく、問題にされるようなことでもありません。ましてや単なる「懸念」だけをもって、子どもの学ぶ権利への侵害となる補助金停止の理由にするなど許されるはずがありません。特定の学校に対してのみその関係性を問題視し、干渉したり、処遇差別をしたりすること自体が、まさに教育基本法の禁じる「不当な支配」にあたるといえます。

2019年8月末に埼玉県知事に就任した大野知事は、就任早々のインタビュー(東京新聞2019年9月6日)で「政治と教育は違う。一方で、県のお金を使うということは、県民が納得しないといけない。そんな中で、(拉致問題解決まで予算執行を留保すべきだという)県議会の付帯決議もあり、理解されているとは言えない状況だ。理解を得る努力はするが、直ちに補助金を拠出する環境にはないと思っている」と答えています。

「政治と教育は違う」ということへの「理解を得る努力」を表明する大野知事が、差別是正に踏み切れるよう、政治・外交的な理由で子どもの権利を踏みにじってはいけないという多くの県民の声を知事に届けることが必要です。

そうです。2009 年12 月から起こったこの事件については、実行犯が刑事裁判で有罪となり、民事裁判では、最高裁が在特会側の上告を棄却(2014年12月)することにより、1226 万円の損害賠償と学校周辺での街宣禁止が確定しています。

民事の判決内容については、異例の高額賠償と新聞等でも大きく報道されましたが、その理由として京都地裁(2013年10月)は、人種差別撤廃条約に抵触することに言及、そして大阪高裁(2014年7月)は、このことに加え、「本件学校の教育環境が損なわれただけでなく、我が国で在日朝鮮人の民族教育を行う社会環境も損なわれたことなどを指摘することができる」と言及しました。

埼玉県が、政治や外交問題を“理由”に、補助金を止めることは、まさに「在日朝鮮人の民族教育を行う社会環境」を損なうことであり、裁判で断罪された在特会と同じレベルの行為といっても過言ではありません。

そうです。埼玉県は「埼玉県多文化共生推進プラン」というものをうちだしています。

そこには、その目的として「日本人と外国人住民の双方がそれぞれの文化的、宗教的背景などの立場を理解し、共存、共栄を図っていく『多文化共生』の考え方が重要」「(外国人住民が)それぞれの個性と能力を十分に生かせる社会づくりが必要」という考えに基づき「様々な多文化共生施策を体系的、計画的に進める」と掲げられています。

民族教育を受ける子どもたちをはじめ学校関係者にはどうすることもできないような外交や政治の問題を持ち出して朝鮮学校を差別することは、不当であるばかりでなく、県の掲げる施策とも相矛盾するものであることは明白なのではないでしょうか。