朝鮮学校をもっと知る その6 「高校無償化」からの朝鮮学校排除

  キラキラ光る無償化の文字
  私たちの心を躍らせた
  手を振って去る無償化の文字
  私たちの心を凍らせた

 これは2010年に京都朝鮮高級学校に通う女子生徒によって書かれた詩である。

 民主党政権下、2010年度から「高校無償化」制度が開始されると聞き、当事者はみな喜んだ。なかでも、外国人学校にも適用される方向で制度設計がされていると聞いた朝鮮学校関係者にとっては、喜びもひとしおだった。それまで学校教育法上の認可を取っているにしても、それは「各種学校」に過ぎないということで、国からの公的支援の対象からはことごとく外されてきたからである。

 しかし、その後、子どもたちには何の罪もない拉致問題を『理由』に朝鮮学校だけは対象から外すべきという圧力がかかりだした。民主党政権の外からも、また中からも。

 結局、朝鮮学校は適用審査を経てから、ということになる。2010年4月の制度開始とともに適用されることになった一般の日本の高校や、専修学校、また他の外国人学校を横目にしながら置いてけぼりをくらってしまうことになったのだ。ただ、文科省事務次官であった前川喜平氏が「私は審査基準を決める検討会議も担当しました。『高等学校に類する課程を置く学校』と言えるためには、どんな条件が必要かを検討していたのです。条件は年間何時間以上の授業をするとか、外形的な基準だけあればいいと考えました。なぜなら、他の外国人学校に対しては教育の中身まで問うていなかったからです」(アジア女性資料センター発行『女たちの21世紀』2017年12月号)と語るように、適用を判断するために設けられた審査基準は決して朝鮮学校を外すようなものではなかった。授業時数、修業年限、授業科目、校地・校舎の面積、教員に関するもの等、どれをとっても朝鮮学校が条件を満たしているものとなっており、審査が終了さえすれば当然に朝鮮学校も同制度の適用を受けることになると考えられていた。

 国会でも「高校無償化」法案の審議の中で「外交上の配慮などにより判断すべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断すべきもの」(2010年3月12日)という『政府統一見解』が示されていた。当時の民主党を中心とした政権では、さすがに「拉致」をもって教育上の処遇差別を行うのは正当化されないという最低限の人権感覚が働いていたわけだ。

 しかし、様々な横槍が入ることにより、その審査は遅々として進まいことになる。そして制度が始まって3年目となる2012年、政権の座には再び自民党がつくこととなるのだが、自民党、第二次安倍内閣は、まるで初仕事であるかのように朝鮮学校に対する審査を打ち切り、「高校無償化」から排除することを決定してしまう。

 下村博文は文科大臣に就任した翌々日の記者会見で開口一番、次のように言い放った。「まず、無償化に関する朝鮮学校の扱いについて報告をいたします。本日の閣僚懇談会で、私から、朝鮮学校については拉致問題の進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等から、現時点での指定には国民の理解が得られず、不指定の方向で手続を進めたい旨を提案したところ、総理からもその方向でしっかり進めていただきたい旨の御指示がございました。このため、野党時代に自民党の議員立法として国会に提出した朝鮮学校の指定の根拠を削除する改正法案と同趣旨の改正を、省令改正により行う」(2012年12月28日)。

 さらに下村大臣は記者からの質問に対し「外交上の配慮などにより判断しないと、民主党政権時の政府統一見解として述べていたことについては、当然廃止をいたします」と言ってのけた。

 そして、翌2013年2月20日、朝鮮学校を審査するための根拠規定を削除するためだけの省令(施行規則)『改正』が施行される。また、同日、朝鮮学校に対し「高校無償化」を適用しないという不指定決定通知が出される。

 これが、「高校無償化」からの朝鮮学校排除が決定されるまでの経緯である。

 この間、朝鮮学校の当事者らは東京、愛知、大阪、広島、福岡で訴訟を起こし、司法に救済を求めたが、裁判所は、例のごとく政府への忖度を働かせ、国の裁量権を逸脱するとまでは言えないとして当事者の訴えに背を向けた。「教育の機会均等とは無関係な…外交的、政治的意見に基づき、朝鮮高級学校を支給法の対象から排除するため、本件規定を削除したものであると認められる。…違法、無効と解すべきである」(判決要旨より)とした大阪地裁を唯一の例外として(この判決も上級審で覆されてしまう)。

 この間、国連でも社会権規約委員会や人種差別撤廃委員会、子どもの権利委員会が条約遵守の観点から日本政府に差別を止め、朝鮮学校へも同制度を適用することを勧告しており、国内においても日弁連をはじめ各地の弁護士会が同様の会長声明を出すなど、この問題は、内外からの批判にさらされ続けている。

 しかし、「無償化」の文字に心躍らせた生徒の心を一転して凍らせた「無償化」排除は現在もなお続いており、また前川喜平氏をして「上からのヘイト」と言わしめたこの理不尽極まりない差別は、埼玉県など複数の自治体の朝鮮学校への補助金停止につながり、コロナ禍における学生支援緊急給付金からの朝鮮大学校(東京都小平市)排除にまで連なっている。

 この負の連鎖を断ち切るためにも朝鮮学校に対する理解をより拡げていければと思う。こころある方々とともに。

埼愛キムチ新聞第13号(2022年5月7日発行)より


「埼愛キムチ新聞」は埼愛キムチの頒布会毎に発行しています。このページやPDF版を、周りの方々にぜひとも広めていただき、埼玉朝鮮学校をはじめ朝鮮学校の現状を多くの方々に知っていただけたらと思います。