朝鮮学校をもっと知る その9 韓国における朝鮮学校への理解と支援の拡がり

 朝鮮学校は今日に至るまで、1957年から教育援助費・奨学金が朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)より送られてきたことが象徴するように、在日朝鮮人の民族的アイデンティティを守ることに早くから理解を示してきた共和国との繋がりを持ちながら今日まで学校教育を行ってきた。その繋がりは、戦前の皇民化政策を引きずった同化政策から脱却できず、民族学校(外国人学校)冷遇を続ける日本政府と、その政策に大きく影響を受けてきた日本社会のもとで民族教育を続ける朝鮮学校を強く支えるものであった。

 一方、在日朝鮮人の民族的アイデンティティ維持に長らく大きな関心を持ってこなかった韓国政府は、1965年、日本と国交を結ぶにあたって行われた協議の中で朝鮮学校の強制閉鎖を促すことまであった(1965年4月23日、韓日法的地位協定委員会)ことに象徴されるように、かつては南北分断を背景にした冷戦思考の呪縛の中でしか捉えられないという状態にあった。故に韓国社会では、長い間、日本にある朝鮮学校の存在さえほとんど知られていないか、知られていても多くの場合、それは偏見に染まったものでしかなかった。

 しかし、1987年以降の民主化の進展とともに、韓国の市民社会においては、かつての呪縛から解き放たれ、民族的見地、脱植民地主義の見地から朝鮮学校を新たな眼差しで見る動きが出てきた。とりわけ東京都の石原慎太郎知事(当時)により東京朝鮮第二初級学校(江東区枝川)の土地明け渡し裁判(2003〜。2007年に学校側の勝利的和解。学校は存続できることに)が起こされた折には韓国の市民団体であるKIN(Korean International Network=地球村同胞連帯)の活躍により、韓国の多くの放送局が、学校を取材し、好意的に放映した。また、これを前後して韓国から北海道の朝鮮学校を訪ね、長きにわたる取材を通して作り上げられた金明俊(キム・ミョンジュン)監督製作のドキュメンタリー映画『ウリハッキョ』(2006年)が韓国各地で上映された。これらのことが韓国市民社会における朝鮮学校への関心を高める上で大きな役割を果たした。

 そして、2011年には、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城(仙台)や福島(郡山)などの朝鮮学校を支援しようと、金明俊監督や、「冬のソナタ」にも出ていた俳優の権海孝(クォン・ヘヒョ)らにより「モンダンヨンピル(ちびた鉛筆)」という団体が結成。韓国内でアーティストらによるチャリティーコンサートが何度も行われ、その収益金が被災地の朝鮮学校に届けられた。また同団体のコンサートは2012年の東京公演を皮切りに日本各地でも開かれ、朝鮮学校の児童・生徒や保護者らとの交流も重ねられた。

 2014年6月には、法曹団体、宗教団体、労働組合、女性団体、農民団体、KINやモンダンヨンピルなどの市民団体が参加する形で、「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」が結成。同会は、2014年11月から本年2月まで計17回の訪日団を組織し、毎回、数十名が文科省への要請行動や朝鮮学校関係者との交流会などを行っている。

 このような流れのなか、KINと日本で「高校無償化」制度の朝鮮学校適用を求める市民団体との共同制作で『チョソンハッキョ イヤギ』(『朝鮮学校物語』)が、まず韓国(2014年)で、続いて日本(2015年。花伝社発行)で出版されている。

 また、さいたま市による朝鮮幼稚園へのマスク不支給問題が起こったとき(2020年3月)には、「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」をはじめとする159の団体が名を寄せた記者会見文をソウルの日本大使館前で読み上げる緊急糾弾記者会見が行われ、さらには大量のマスクが韓国の市民団体から埼玉朝鮮学園に送り届けられている。

 『ウリハッキョ』に続く韓国出身の監督による朝鮮学校を扱ったドキュメンタリー映画も『60万回のトライ』(2013年)、『ウルボ — 泣き虫ボクシング部』(2014年)、『ナヌン チョソンサラミダ(私は朝鮮人だ)』(2020年)、『チャビョル(差別)』(2021年)と、続々、制作、公開されている。

 このように朝鮮学校への眼差しは、韓国社会で着実に変化してきている。


書籍の紹介

3月に発行される『高校無償化問題が問いかけるもの ― 朝鮮学校物語2』(朝鮮学校「無償化」排除に反対する連絡会記録編集員会編。花伝社発行。1320円/税込み)には埼玉朝鮮初中級学校保護者の金範重さんが「埼愛キムチ」のことを書いた文章も収録されています。お求めの方はこちらの注文フォームを使ってご注文ください!

埼愛キムチ新聞第18号(2023年3月11日発行)より


「埼愛キムチ新聞」は埼愛キムチの頒布会毎に発行しています。このページやPDF版を、周りの方々にぜひとも広めていただき、埼玉朝鮮学校をはじめ朝鮮学校の現状を多くの方々に知っていただけたらと思います。