埼愛自由日記 その4 県の補助金の「恩恵」を一度も受けることなく

 2010年の10月、私の娘は埼玉朝鮮幼稚園に入園した。娘にとって記念すべき初めての民族教育との出会いの日は、一度も民族教育を受けたことのない私にとっても記念日となった。京都から東京、そして埼玉に引っ越してきたタイミングでの途中入園となったが、「子どもは朝鮮幼稚園から」と思っていたので私の方がワクワクしていた。当時は川口市に幼稚園があり、さいたま市に住む他の園児達を乗せて向かうため、結構な時間を通園バスで過ごす。また、初めての環境で親がいないと不安がるだろうと、もしもの時は連れ合いも一緒に通園する旨を先生に伝えていたとのことだが、娘はヒョイとバスに乗り込み、行ってしまったそうだ。

 それから5カ月後の2011年3月、埼玉県は「財務の健全化」を口実に埼玉朝鮮学園への補助金支給を停止した。今年の3月に埼玉朝鮮初中級学校の中級部を卒業し、東京朝鮮中高級学校の高級部に入学した娘は、とうとう県の補助金の「恩恵」を一度も受けることができなかった。

 補助金が支給されていた2009年度の金額は約1,000万。現在でも朝鮮学校に補助金を支給している他の地方自治体と比べて決して高額ではないものの、それでも「補助金が出ていれば…」と何度も思ってしまう。朝鮮学校で学ぶ子ども達の教育環境の悪化だけなく、教職員のボーナスと人件費のカットが常態化されてからかなりの時間が過ぎてしまった。

 2009年12月に起こった「在日特権を許さない市民の会」(在特会)らによる京都の朝鮮学校への襲撃事件については、実行犯が刑事裁判で有罪となり、民事裁判では最高裁が在特会側の上告を棄却することにより、1,226万円の損害賠償と学校周辺での街宣禁止が確定した。民事の判決内容については、異例の高額賠償と新聞等でも大きく報道されたが、その理由として京都地裁は、人種差別撤廃条約に抵触することに言及、そして大阪高裁は、このことに加えて「本件学校の教育環境が損なわれただけでなく、我が国で在日朝鮮人の民族教育を行う社会環境も損なわれたことなどを指摘することができる」と言及した。埼玉県が、政治や外交問題を“理由”に、補助金支給を停止することは、まさに「在日朝鮮人の民族教育を行う社会環境」を損なうことであり、裁判で断罪された在特会と同じレベルの行為といっても言い過ぎではないと考えている。

 「人は愛されるために生まれました。差別されるためじゃありません。私はこの大阪が、日本が、世界が偏見や差別がなく、みんなが平等で、当たり前の人権が守られる世の中になることを願っています」。これは大阪地裁の補助金裁判で勝訴した後の高校2年生の女生徒の言葉である。

 「朝鮮学校の補助金は人権の問題ではなく、制度の問題」と言い放った埼玉県・人権・男女共同参画課課長、そしてこのことは「課内で共有された認識」としたLGBTQ担当主幹。あなた方が言う「人権」の“人”に朝鮮学校の子ども達は含まれているのかと問いたい。朝鮮学校問題のみ陥没したかのような人権施策と啓発活動の先に、あなた方が言う「すべての県民がお互いに人権を尊重しながら生きる社会」が来るのだろうか。補助金支給停止という「制度からの排除」は、断じて日本社会の差別意識と無関係ではないはずだ。埼玉朝鮮学校で学ぶ子ども達は、あなた方が守るべき埼玉県民でもある。どうか、この事をもう一度考えて欲しい。(k・p)

埼愛キムチ新聞第19号(2023年5月13日発行)より


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