朝鮮学校をもっと知る・その⑪  再びの排除、高校授業料無償化拡充

「日朝国交正常化と連動すべきであり、拉致問題も全く動いていない以上、無償化はあり得ない。生徒は日本の高校に通ってほしい」。

 産経新聞(3月3日配信)に掲載された、自民党、公明党、日本維新の会の三党が合意した高校授業料無償化拡充策に関しての下村博文元文部科学大臣のコメントである。下村氏は2012年11月、第二次安倍晋三政権が誕生した直後に文科大臣に就任し、「拉致問題に進展がないこと」等を理由に、全国の朝鮮学校高級部(高校に相当)を現行の高校授業料無償化制度から除外した張本人である。この国の「理屈」は埼玉県をはじめ、と地方自治体が各地の朝鮮学校に支給していた補助金を打ち切る理由に転用された。

※現行の制度(2010年度開始)については、『埼愛キムチ新聞』第13号「朝鮮学校をもっと知る・その6・『高校無償化』からの朝鮮学校排除」参照。

 今回の拡充策では、2025年度から所得制限を撤廃し(現行制度では年収910万円未満の所得制限があった)、 公立私立と問わず11万8800円が支給される。さらに2026年度からは私立高校向けの上乗せ分の所得制限も撤廃し、支援金の上限を45万7000円まで引き上げるというものである。

 現行制度からの朝鮮学校排除については、国連でも日本が批准する社会権規約委員会や人種差別撤廃委員会、子どもの権利委員会が条約遵守の観点から、教育を受ける権利を侵す差別と指摘し、朝鮮学校へも現行制度の適用を勧告している。解釈の余地なく、法的に認定された差別を元文科大臣が無視し、差別の再生産と拡大に加担する。

 言うまでもなく、子どもを朝鮮学校に送る保護者は、日本の方々と同様に等しく納税の義務を果たしている。現行の制度より更に手厚い恩恵を受ける高校生がいる反面、制度開始以来、一度も制度の対象となっていない高校生もいる。自身の子どもの教育にはほんのわずかな税金しか使用されず、そうではない教育の充実のための納税にやりきれない思いをする在日朝鮮人は多くいる。

 朝鮮半島にルーツがある子どもたちが、日本の学校では習得が困難な民族の言葉や文化、歴史を学ぶことができるのが朝鮮学校だ。幼稚園から大学まで在日朝鮮人の教育機関を、ありとあらゆる教育支援措置から排除しようと画策してきた文科省の元大臣が「…生徒は日本の高校に通ってほしい」と言い放つことは、在日朝鮮人の文化と歴史、存在を根本から否定する卑劣な言動だ。日本の植民地支配によって大きく棄損された民族の言葉や文化。その回復義務を日本は負っているはずだ。

キラキラ光る無償化の文字/私たちの心を躍らせた
手を振って去る無償化の文字/私たちの心を凍らせた

 京都朝鮮高級学校に通う女子生徒が2010年に書いた詩である。再びの排除は、“凍った心”を打ち砕く。

埼愛キムチ新聞第30号(2025年3月22日発行)より


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