朝鮮学校をもっと知る その5 「さいたま市外国人学校児童生徒保護者補助金」問題を考える

 現在、埼玉朝鮮学園(学校)に対する埼玉県の補助金は2010年度から不支給となっているが、埼玉県下の市レベルでは、朝鮮学校に子どもを通わせる保護者を対象とした補助金が支給されている。朝鮮学校が所在し、学校保護者が最も多く居住するさいたま市でも同種の制度がある(『さいたま市外国人学校児童生徒保護者補助金』。初級部は年間2万円で月額約1,666円、中級部は年間4万円で月額約3,333円)。

 しかし、さいたま市は2017年度に同制度に所得制限を設け、またその基準を「就学援助制度」のものと同様とした。

 市が所得制限導入の理由とした「平成27年度包括外部監査の結果報告書」には、同様の制度がある東京都新宿区と中野区を例に挙げていたが、これは極めて例外的な事例であった。なぜなら、当時の東京都23区のうち、外国人学校保護者補助金に所得制限を設けているのはこの二つの区のみであり、また埼玉県下でも多くの市が外国人学校保護者補助金を出していたが、所得制限を設けているところはなかった。加えて、この2区では新宿区が年額一人当たり72,000円(初中)、中野区(初中)が96,000円と、さいたま市の補助金額よりもはるかに高額の支給がなされていた(因みに、現在でも、さいたま市の補助金金額は県下で最も低い。今年度は対象児童が居住していないものの、蕨市の補助金金額は初級部年間96,000円、中級部144,000円である)。

 そもそも「就学援助制度」は、授業料が無料という学費負担が極めて低い公立学校に通わすことすらも困難な世帯を主な対象にして、その学用品購入費や通学費等の負担を軽減することを目的として設けられた制度である。無償である公立の小中学と比較して高額となる授業料等の教育費の負担軽減を目的とする「保護者補助金」制度とは、趣旨も性格も大きく異なるものである。

 市内在住の朝鮮学校保護者は反対の声を上げたが、さいたま市は所得制限導入を強行し、結果として、ほぼ全ての保護者が対象外となった。年間10回近くにのぼる学校関係者の粘り強い要請の結果、何とか翌年度には所得制限の基準を緩和させることができ、現在に至っている。

 しかし、余りにも低額すぎる補助金額の増額と、所得制限の撤廃を求めて継続した要請活動を行ってきたが、市の「情報公開制度」で得られた関連資料の中に決して容認できない文書があることが判明した。

 この文書は、この制度の担当である、市・教育委員会学校教育部学事課が2017年3月16日付けで作成した、「「外国人学校児童生徒保護者補助金」の見直しについて」であり、「2.教育委員会の見解」として、「外国人学校に通う児童・生徒は無償である本市の市立小中学校を選択することも可能であると考える」と記載されていた。

 私たち朝鮮学校関係者にとってこの文言は朝鮮学校の存在と民族教育の明確な否定であり、担当課の学校訪問を含めて複数回の要請を通して、文言の撤回と教育長の学校訪問を要請したが、「この文言は撤回しない」、「本来、市民が見る文書ではない」、「さいたま市は総額で一番支給している(県下ではさいたま市に学校保護者が最も多く居住していので、当たり前である)」、「学芸会などのイベントなら教育長は訪問するが、通常の授業の視察は、公立小中学校にも行わないので、公平性の観点から、朝鮮学校にも訪問しない」と、信じられない発言を連発した。

 2022年1月、学校保護者と「誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会」の共同代表2名が市を訪問して教育委員会の見解を求め、その回答を文書で求めた。しかし、共同代表に宛てられた2月18日付の回答には、「平成29年に作成されました「『外国人学校児童生徒保護者補助金制度』の見直しについて」のなかで、記載されております文章について、民族教育を否定する内容であるという御指摘ですが、そのような意図はなく、民族教育を否定するものではありません。また、教育長の埼玉朝鮮初中級学校への学校訪問ですが、機会をとらえて訪問したいと考えております。」と書かれていた。

 さいたま市は、市内に住む朝鮮学校の子ども達にとって最も身近な行政であると同時に、教育委員会は子どもの教育と未来を考える重要な機関であるはずである。市は「朝鮮幼稚園にはマスクを配布しない」とした、2020年3月の差別的対応を全く反省しておらず、官製ヘイトを繰り返している。

 理解あるみなさんと共に、この問題を解決したいと思う。

埼愛キムチ新聞第12号(2022年3月5日発行)より


「埼愛キムチ新聞」は埼愛キムチの頒布会毎に発行しています。このページやPDF版を、周りの方々にぜひとも広めていただき、埼玉朝鮮学校をはじめ朝鮮学校の現状を多くの方々に知っていただけたらと思います。