埼愛自由日記 その1  『埼愛キムチ日記』が公開されて

「埼玉朝鮮初中級学校60周年連帯プロジェクト」が制作した『埼愛キムチ日記』が公開された。作業の様子に驚かれた方やオモニ達の語りや校長の話に感心された方、終盤のテロップ「学校に「保健室」という部屋はあるが、養護教諭を配置する財政的余裕はない。子どもたちの健康診断医に公的補助もなく、その安全と健康を守ることは、学校・保護者の自助努力に委ねられている。」であることをはじめて知った方など、実に様々な感想や反応があった。心のこもったメッセージも、直接頂いた。

『埼愛キムチ日記』は、埼玉朝鮮初中級学校・幼稚園だけでなく、全国の全ての朝鮮学校・幼稚園の日常である。国からの補助が一切ないため、地方自治体レベルの補助金が支給されている朝鮮学校であっても、慢性的な財源不足に変わりはない。つまり、埼玉朝鮮学校のオモニ達の言葉は、朝鮮学校に子どもを通わせた、通わせている全てのオモニ達の言葉となり、埼玉朝鮮学校の校長の願いは、全ての朝鮮学校の教員の願いとなる。

神奈川県の資料(2017年)によると、児童・生徒一人あたりに使われる税金は小学校6年間で約531万円(1年間で約88.5万円)、中学校3年間で約319万円(1年間で約106.3万円)とのことである。今、国庫補助を含め、私たち、朝鮮学校の子どもに同等の税金が使用されれば、保健室を新しくして養護教員も雇い、古い本しかない図書室に新しい本を購入し、学校給食も導入したい。開きにくい教室のドアも新しく取り替えたいし、何よりも毎日遅くまで頑張っている先生方にまともな給料を準備したい。私たちが願っていることは、こんなごく普通のことである。私たちが支払っている税金を、日本学校に通う子どもたちと同等に、私たちの教育にも使用して欲しいだけなのである。決して、不相応で強欲な要望ではないはずである。

『埼愛キムチ日記』は、このような私たちの等身大の姿と、ありふれた日常を映し出してくれた。「民」による、汚い言葉でがなり立てる行為だけが差別・ヘイトではなく、行政の行為として朝鮮学校とそこに集う人々の存在を無視・周辺化することもまた「官」による差別・ヘイトであり、それらに抗う姿なのである。何より、子を思う親の気持ちと生徒を愛する先生の姿は、日本の皆様のそれと全く変わらないことを理解して欲しい。

埼愛キムチは今回で27回を数える。財政活動として始まったのは確かであるが、今では朝鮮学校と日本の皆様を繋げる〈窓〉となっている。直接、キムチを学校に取りに来る方にとっては、〈ドア〉なのかもしれない。埼愛キムチの活動が全国の朝鮮学校の存在を考えるきっかけになればと願っている。

今年、還暦を迎えた埼玉朝鮮初中級学校。古稀に向かう十年は日本の「良識」と手を取り合って歩みたい。

埼愛キムチ新聞第7号(2021年7月10日発行)より


「埼愛キムチ新聞」は埼愛キムチの頒布会毎に発行しています。このページやPDF版を、周りの方々にぜひとも広めていただき、埼玉朝鮮学校をはじめ朝鮮学校の現状を多くの方々に知っていただけたらと思います。