岡議員のご回答に対する見解

 埼玉県議会定例会(本年2月)で、埼玉朝鮮学校への補助金支給の問題を取り上げ、私たち「有志の会」の活動にも触れられた岡重夫議員(無所属県民会議)に、2020年5月11日付で公開質問状をお送りしました。(以下質問1,2)

1.議員は「拉致問題等が解決されるまで予算の執行は留保するべき」という平成23年度の予算特別委員会の付帯決議を支持されていらっしゃいますが、日本に生まれ、日本に暮らす児童生徒の学ぶ権利を支援する補助金を停止することが、朝鮮民主主義人民共和国による拉致問題の解決に具体的にどのような効果があるとお考えでしょうか。

2.埼玉県による私立学校運営費補助金が停止されて十年が経過いたします。この間、厳しい財政状況の中で学ぶことを余儀なくされることで、埼玉朝鮮学校児童生徒の学習権が侵害されていることについてどのようにお考えでしょうか。
(詳細 https://tomoni-saitama-koreanschool.org/2020/05/11/post-323/

 岡重夫議員からは5月19日に、ご回答をいただきました。お忙しいなか、私どもの質問にお答えいただき、まことにありがとうございます。岡議員の市民活動への真摯な姿勢にあらためて敬意を表します。

 岡議員のご回答は以下の通りです(詳細は添付のPDFをご参照ください)。

1.どの国にとっても、どの親にとっても大切な子どもたちです。
貴団体から、拉致問題が解決しないことによって起きている、埼玉朝鮮学園で学ぶ子どもたちの現状を北朝鮮本国に伝えることで、北朝鮮が拉致問題を反省して解決に向かう力になると考えます。

2.埼玉朝鮮学園の児童生徒の学習権の侵害の前に、北朝鮮に不法に拉致された被害者や、子どもを奪われた家族の人権が侵害され続けていることを考えてしまいます。埼玉朝鮮学園に通う子どもたちは少なくとも家族と暮らしていて、突然拉致されているわけではありません。県税で補助をする前に、先ずは拉致問題解決が優先されるべきだと考えます。

 ご回答に対して、私たちは次のように考えます。

 私たちの活動の中心は、「誰もが共に生きる埼玉県」を目指し、埼玉朝鮮学校の児童生徒がこうむっている差別と不利益を解消することです。

 私たちは拉致問題が深刻な外交的課題であることは認識しており、政治的解決に向けて外交的努力を続けるように政府に働きかけていくことが必要だと思っています。しかし、埼玉朝鮮学校への補助金を停止することは、本件に関して何ら責任もない子どもたちを言わば「人質」にしてこれを解決しようとするものであり、人道上看過できない方法だと考えます。かのマハトマ・ガンジーは「握り拳と握手はできない※」という言葉を残し、国際紛争など困難な問題の解決には対話と協調が必要なことを提唱しています。

 岡議員は、「埼玉朝鮮学園の児童生徒の学習権の侵害の前に」としてまずは拉致問題の解決をすべきだと述べています。しかし、そもそも拉致問題と朝鮮学校への補助金停止の問題とは優先順位の問題ではありません。両方ともが解決されるべき問題であり、それぞれに適した解決の方法を探るべきです。そして、拉致問題の解決には、上記のとおり粘り強い外交的交渉が必要です。

 これに対して、朝鮮学校への補助金停止の問題について、私たちは次のような見解を発表しています。

「拉致問題」を理由に補助金を不支給にするというのは、日本国内に住む人々を朝鮮民主主義人民共和国と何らかの関係があるという理由だけで差別的に取り扱ってもよいという考え方に基づくものです。これは個々の人や団体の活動には何の問題もなくとも、ただその人や団体の民族・出自などの属性にだけ着目して差別するという考え方です。アメリカ人だから、被差別部落出身者だから、女性だからという理由だけで差別するのと同じ考え方です。在日朝鮮人の学校だからという理由に基づいて、県が補助金を支給しないことは、日本国憲法14条で禁止された典型的な差別であり、憲法違反です。県民の代表者から構成される県議会が、このような明らかな差別を行うことを公然と附帯決議によって表明することは極めて恥ずべきものであり、厳しく非難されてしかるべきものです(「埼玉朝鮮学園に対する県補助金不支給に関する共同声明」2019年3月18日)。

 このように、朝鮮学校への補助金停止の問題は、拉致問題を解決しなければ取り組むことができないようなものではありません。むしろ埼玉県が憲法上禁止される差別的取り扱いをしたことに起因するものであり、このような県の行いが改められればすぐに解決できるものです。私たちは、このような県による差別的な取り扱いが一刻も早く改善されることを願っています。

 私たちは岡議員の次の言葉に深く共感します。

「どの国にとっても、どの親にとっても大切な子どもたちです」

 拉致問題被害者の方の人権、子どもたちの人権、ともに尊重されなければなりません。

 当会の活動は拉致問題の解決に直接にはつながりませんが、同時に被害者の方々の人権を毀損するものでもありません。もちろん、朝鮮民主主義人民共和国による拉致問題-人権侵害を免罪することでもありません。

 私たちは埼玉朝鮮学校への補助金停止が、埼玉県内で生まれ育っている子どもたちの学習権を侵害する行為であることを明確にし、補助金再開に向けて今後とも岡議員を含む様々な方々との対話を続けていきたいと考えております。意見の相違は、民主主義の原点です。互いの違いを認め合い、誰もが差別や不合理な扱いを受けることなく、共に生きることのできる埼玉県に向けて、私たち「有志の会」はこれからも活動を続けてまいります。

 岡議員におかれましては、私どもの公開質問状にすみやかにご回答くださいましたことにあらためて感謝申し上げます。

※この言葉は、1971年第三次印パ戦争が始まる前にインディラ・ガンジー首相がマハトマ・ガンジーの言葉をそのままパキスタン大統領に伝えたものですが「握りこぶしを開いて、握手しましょう!!」という意味に解釈されています。

2020年6月5日

誰もが共に生きる埼玉を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会
共同代表
 磯田三津子(埼玉大学准教授)
 猪瀬浩平(明治学院大学教授・NPO法人のらんど代表理事)
 内田淳(さいたま市民活動サポートセンター利用者の会共同代表)
 小田原琳(東京外国語大学准教授)
 中川律(埼玉大学准教授)
 渡辺雅之(大東文化大学教授)