さいたま市に「外国人学校児童生徒保護者補助金制度」の見直しについて公開質問状を提出しました

 さいたま市は従来、学校教育法における各種学校にあたる外国人学校に対する補助を目的として、外国人学校に児童生徒を通わせている保護者に補助金を支給する制度を設けてきました(埼玉県内ではさいたま市以外にも同様の制度をもつ自治体が複数あります)。

 この制度について、2015年に包括外部監査から指摘があったことを根拠に、さいたま市教育委員会は2017年、「外国人学校に通う児童・生徒は無償である本市の市立小・中学校を選択することも可能である状況からも、制度を見直す必要があると考える」として、補助金の支給対象となる保護者について基準を著しく厳しくしました(その後、段階的に基準は緩和され、現在は高校無償化制度と同様の、住民税非課税世帯のみを支給対象としています)。

 「誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校補助金支給を求める有志の会」は、さいたま市による補助金制度の見直しとその根拠としている主張が、日本以外の地域にルーツをもつ子どもたちの民族教育の権利を著しく侵害する無理解に基づくと考え、さいたま市学事課と面談の上認識について質問いたしました(面談は2022年1月24日、質問に対する文書での回答は2月8日)。

 学事課による回答は、民族教育を否定する意図はなかったというものであり、マイノリティの教育に関して認識不足と言わざるを得ないものだったため、有志の会は4月11日に再度学事課を訪問し、4月末日を回答期限とする、以下の公開質問状を提出しました。

 さいたま市教育委員会から回答がありましたら、ご報告させていただきます。


2022年4月11日
さいたま市教育委員会教育長
細田 眞由美様

公開質問状

 私たちは「誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校補助金支給を求める有志の会」と申します。私たちは会の名称にあるとおり誰もが共に平和のうちに生きられる社会の実現に向けて活動しております。活動内容やステートメントについては当会のホームページ(https://tomoni-saitama-koreanschool.org)をご覧いただければと思います。

 さて先日、本会共同代表との面談そしてその後、協議内容に関して文書にてご回答いただき感謝申し上げます。

 つきましては、ご回答いただいた内容に関して本会の見解を述べながら質問いたします。

平成29年に作成されました「『外国人学校児童生徒保護者補助金制度』の見直しについて」のなかで、記載されております文章について、民族教育を否定する内容であるという御指摘ですが、そのような意図はなく、民族教育を否定するものではありません。

 以上の回答をいただきました。しかしながら協議の発端となったさいたま市教育委員会の文書(「『外国人学校児童生徒保護者補助金制度』の見直しについて」)の記述は、ご回答内容に反し、民族教育を本質的に否定するのみならず行政による差別だと考えております。

 以下、こちらの文章に即して、その理由を述べさせていただきます。

2.教育委員会の見解(1)平成27年度包括外部監査での意見に対して

外国人学校に通う児童•生徒は無償である本市の市立小・中学校を選択することも可能である状況からも、 制度を見直す必要があると考える。(「外国人学校児童生徒保護者補助金制度」の見直しについて、平成29年3月16日)

論点①

 民族教育とは生活している国や地域と異なるルーツを持つ人たちが、自らのアイデンティティを確立するために行われるものであり、普遍的人権のひとつであることはご理解いただけると思います

 協議の場で申し上げましたことの再録となりますが、在日朝鮮人の保護者が朝鮮学校を選ぶのは、日本社会の中で、子どもたちに朝鮮民族としてのアイデンティティを継承するために民族言語や歴史・文化の教育が必要であり、そうした教育を子どもたちに与えることができるのは、さいたま市内の朝鮮学校だけであるのが現実です。その意味で、朝鮮学校に子どもを通わせる保護者たちは、「公立学校に通わせても良いのだが、お金に余裕があるからあえて朝鮮学校に通わせている」のではなく、「朝鮮学校に通わせることでしか、子どもたちに朝鮮民族として生きていくための教育を与えることができない」と理解すべきです。これらの点に関してどのような見解をお持ちでしょうか。

* * *

 以下の記載にも重大な問題点があります。

しかし、外国人学校選択する保護者の経済環境は同一ではないことから、十分な所得がある保護者にまで、補助金等送付する必要性は低いと考えられる。これは高等学校の授業料の減免について、所得制限をしているのと同様の観点である。したがって、公平性の観点からは、保護者の所得に応じた交付額変更する必要があると考える(「外国人学校児童生徒保護者補助金制度」の見直しについて、平成29年3月16日)

論点②

 そもそも各種学校である朝鮮学校は、公的な財政援助をほとんど受けていないため、一条校である私立学校と比べても授業料負担が極端に大きくなっています。私たちの調査によれば、寄付金を募ったり教員の給与削減などによって保護者負担を減らそうと努力していますが、それでも教育負担は重いままです。よって朝鮮学校に通わせる保護者について、一条校である私立学校に通わせる保護者と同列に論じることはできないはずです。

 このような行政の姿勢は、「朝鮮半島にルーツを持つ人たちは差別してもよいのだ」という排外主義を助長することにつながります。そもそもこれらの文書は内部文書とは言え、公的文章であり、情報公開すれば誰もが読めるものです。仮に排外主義的な意識を持つ人がこの文書に触れた場合、さいたま市は「民族教育の権利を認めていないのだ」と認識し、結果としてヘイトスピーチ(差別扇動表現)を強化することが危惧されます。実際に、さいたま市が備蓄マスクの対象から朝鮮学校幼稚部を除外したことがニュースになった際(2020年3月)、幼稚園には「国へ帰れ」「北朝鮮からマスクをもらえ」などの悪罵の電話があり、SNS上ではヘイトスピーチが拡散されました。この点についてどのような認識をお持ちでしょうか。

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 さらに根本的な問題があります。「民族教育を否定する内容であるという御指摘ですが、そのような意図はなく、民族教育を否定するものではありません」という記載です。

論点③

 確かに教育委員会のみなさんが「民族教育を否定したり、ましてや差別する意図はなかった」のだろうと私たちは考えます。しかしながら、意図のあるなしは関係ありません。すでに論点①で指摘したように、「無償である市立の小・中学校を選択可能である」という文言自体が、民族教育の権利を無視するものであり、差別を是認するものです。さらに重要なのは、当事者がどう感じ、どう認識したかが問題なのです。教育行政に関わる方ならば周知のことですが、文科省はいじめの定義をアップデートしてきました。

「いじめ」とは、「①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じている者であって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの」とする。(1986年)

個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係にある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。(2006年)

この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものをいう。(いじめ防止対策推進法 2013年)

太字は当会による

 いじめの定義から「一方的に」「継続的に」「深刻な」といった文言が削除され、「いじめられた児童生徒の立場に立って」が追記されたのです。簡単に言えば、当事者(された側)の立場に立たなければならないということです。こうした観点から言えば、意図があるなしとは関係なく、朝鮮半島にルーツを持つ人たち(とりわけ子どもたち)がどう感じているかに焦点をあて、問題を見つめなければならないのは、教育行政に求められる姿勢だと思います。

* * *

したがって本会としては要請をふくめ以下4点質問いたします。

  1. 上記、論点①②③に関する貴職の見解をお答えください。

2. さいたま市には、民族教育を尊重することを明瞭に示す文書は現時点で存在しておりません。仮に市の担当者が代わり、該当文書による引き継ぎがなされた場合、「小中学校を選択することが可能であるから、補助しなくていい」という文言が、さいたま市の方針として理解される恐れが生じます。よって本文書を撤回または修正するなどが必要であると考えるので、その対応についての今後の見解を教えてください。

3. いま、日本社会には残念ながら、差別や偏見・ヘイトスピーチが広がっています。教育行政の役割は子どもの発達と成長を支えることであることは論を待ちません。さいたま市で生きる子どもたちは、国籍や出自(ルーツ)が異なっていても、発達と成長を保障しなければならない子どもたちです。さいたま市が掲げる多文化共生とはそうした文脈で推進してきたものと理解しています。本件にかかわって言えば、大事なのは、保護者への思いやりや配慮というよりは、すべての人に民族教育を受ける権利の保障です。そのためにも「差別や偏見のないさいたま市にしよう」というメッセージを朝鮮学校関係者だけでなく、さいたま市の子どもたちや、市民に対して教育長が出すべきではないでしょうか。この点に関しての見解をお聞かせください。

4. 教育長の訪問に関して「教育長の埼玉朝鮮初中級学校への学校訪問ですが、機会をとらえて訪問したいと考えております」という回答をいただきましたが、学校訪問に関する今後の具体的な計画や見通しについて教えてください。

 最後に、外部監査の意見を無条件に受け入れ、制度「改変」に至った教育委員会の判断にも問題があったという認識でおります。そもそも行政は外部監査の意見をそのまま聞き、取り入れなければならないというものではありません。監査意見を受けての判断は行政が主体的に行うものであり、事実、監査報告の他の部分の指摘については、特段の事業変更を行っていない項目もあります。

 いずれにしても今まで述べてきた通り、この判断に基づく見解は、さいたま市の掲げる多文化共生の理念とは相容れないものだったのではないでしょうか。私たちは、さいたま市の掲げる多文化共生の理念と方針を強く支持します。今後も、さいたま市で生きる市民・子どもたちのために尽力されていくことを期待しています。

 公務ご多忙のおり、恐縮ですが誠意あるご回答をいただきますよう伏してお願い申し上げます。

回答期限
2022年4月末日

誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会
共同代表
 磯田三津子(埼玉大学准教授)
 猪瀬浩平(明治学院大学教授・NPO法人のらんど代表理事)
 内田淳(さいたま市民活動サポートセンター利用者の会共同代表)
 小田原琳(東京外国語大学准教授)
 中川律(埼玉大学准教授)
 渡辺雅之(大東文化大学教授)