朝鮮学校補助金問題に関する知事答弁等に関する見解
朝鮮学校補助金問題に関する知事答弁等に関する見解(概要)
上田清司知事は、2018年6月27日埼玉県議会において、田並尚明議員の朝鮮学校補助金停止問題についての質問に対して、
①学園の財務状況に関して、経理その他の事務処理が適正を欠いている
②拉致問題等が解決されるまでは予算の執行は留保すべきとの附帯決議がある(平成24年3月予算特別委員会)
③高校就学支援金裁判(朝鮮高校無償化裁判)で国が主張する"朝鮮総連と朝鮮学校の関連性について"懸念が生じている
と答弁しました。
私たち「誰もが共に生きる社会を目指し、埼玉朝鮮学校補助金支給再開を求める有志の会(以下、有志の会)」は、この知事の答弁は、埼玉県が推進してきた人権施策(本文項目1)や、人種差別撤廃条約や子どもの権利条約など日本が批准した人権諸条約(本文項目2)と矛盾すると考えます。
加えて知事答弁の三項目については、それぞれ
①財務処理の適正さに向けた学園側の誠実な対応と、ゴールを動かし「財政状況の不健全」をいつまでも理由とする県の対応
②附帯決議の妥当性への疑義:子どもの人権の問題と政治的問題を結びつける決議内容の問題と、法的拘束力のない決議を尊重する行政の態度
③「不当な支配」という言葉の濫用:民族教育を受ける権利の保障と民族団体の果たしてきた役割の重要性の点で問題があると考えます。
ヘイトスピーチなど朝鮮半島にルーツを持つ人びとへの差別が横行するなか、埼玉県が朝鮮学校への補助金を停止していることは、こうした偏った考えを持つ人びとを後押しすることです。私たちは、上田知事や埼玉県議会に対して朝鮮学校への補助金再会を強く求めるとともに、総務部学事課に対しては財務の健全化を確かめるための学園への即急な訪問を求めます。そして、多くの県民にこの問題への関心を持つと共に、差別のない多様性を認め合う埼玉県をつくるために私たちと共に歩むことを願います。
朝鮮学校補助金停止問題に関する知事答弁等に関する見解
はじめに
朝鮮学校に対する補助金停止は、2010年からすでに10年近い年月が過ぎようとしている。
2015年、埼玉弁護士会は上田清司知事に対して「人権侵犯救済申立事件に関する決定(警告)」を出している。これは2013年に同校が弁護士会に対し、補助金の不支給が学園及び児童・生徒の人権を侵犯するものとしてその救済を求めたことを受け、弁護士会の人権擁護委員会の調査に基づき発せられたものである。人権侵犯救済申立事件では弁護士会の判断で要望、勧告、警告という形がとられるが、「警告」は一番厳しい意見表明として位置づけられており、朝鮮学校への補助金不支給問題でこの決定が下されるのは全国初であり見過ごせない問題と考える。
有志の会は、この間の経緯を朝鮮学校関係者ならびに県当局(学事課等)に聞き取りを行い、それまでの文書(書簡)のやり取りも精査した結果次のような結論に達し、それに関する見解を発表する。広く県民各位の意見を求めたい。
補助金支給停止は県内に住む子どもたちの教育を受ける権利の侵害であり、結果として朝鮮半島にルーツを持つ人々への差別を容認、拡大する重大な人権問題である。不交付は誰もが納得できる合理的理由を持たず、行政権の濫用である。
2018年6月27日埼玉県議会一般質問において、田並尚明議員は、朝鮮学校補助金停止問題について、次の4点に渡り上田知事の所見を問う質問を行った。
- 子どもに対する政治の役割、責任とは何か
- 朝鮮学校補助金停止は、そこに通う子どもたちに対し、政治の役割と責任を果たしていると言えるか
- 2018年4月18日の記者会見における知事発言「財政が不健全なことがはっきりしています」はいささか不適切ではないか
- 朝鮮学校補助金停止は正しいことなのか、拉致問題と切り離して考えることはできないのか
加えて埼玉県総務部長に対し、補助金停止の理由について次の3点に渡り具体的な質問がなされた。
- 財務の健全化とは、何の法律をもとに何が改善されれば健全化がなったとされるのか。
- 朝鮮学校が学事課の要求する資料を準備したにもかかわらず、さらなる資料要求を繰り返すばかりでいまだ現地確認しないのはなぜか、いつまでに調査に入る予定なのか。
- 人権諸条約の勧告・審査等について、何を根拠に法的拘束力がないと県は学園に回答したのか。子どもの権利条約は差別の禁止等を謳うがこの条約を遵守していると言えるのか。
知事は冒頭に「子どもは家庭、学校、地域の3つで育てられ、この3つの居場所がバランスよく確保されていることが大事」と述べた。また「子どもに対する政治の役割、責任は安心できる居場所やチャンスがより多い社会をつくっていくこと」とも述べている。有志の会としては、この知事発言を全面的に支持する。
しかしながら、知事は「補助金停止(不交付)は妥当」として次の3点をその理由として上げている。
- 学園の財務状況に関して、経理その他の事務処理が適正を欠いている
- 拉致問題等が解決されるまでは予算の執行は留保すべきとの附帯決議がある(平成24年3月予算特別委員会)
- 就学支援金裁判(朝鮮高校無償化裁判)で国が主張する"朝鮮総連と朝鮮学校の関連性について"懸念が生じている
また、総務部学事課は「学園においては、過年度に行った工事等について、契約内容や法人の意思決定過程などに不明な点があり、会計処理上問題がある。それらについて、確認作業を進めているが、全ての解明には至っていない」と回答している。加えて、人権諸条約の見解等は性質的には勧告であり、法的拘束力はなく「直ちに補助金の交付を求めることができる具体的な権利が発生するものではない」とし、不交付は合理的な理由があると述べた。
有志の会はこれら、知事と総務課の答弁は、行政として適正を欠くものであると考え、以下5点に渡ってその理由を述べる。
1.埼玉県が推進してきた人権施策との矛盾
第一に指摘したいのが知事の冒頭発言にある「子どもは家庭、学校、地域の3つで育てられ、この3つの居場所がバランスよく確保されていることが大事」「子どもに対する政治の役割、責任は安心できる居場所やチャンスがより多い社会をつくっていくこと」の中の「子ども」に埼玉朝鮮学校の子どもが含まれていないという問題である。埼玉県は従来、人権施策に積極的に取り組む姿勢を見せている。例えば、「すべての県民がお互いの人権を尊重しながら共に生きる社会の実現を目指して-埼玉県人権施策推進指針」を策定している。そこには、以下のように記されている。
2002(平成14)年3月に「埼玉県人権施策推進指針」(以下「指針」という)を策定し、「すべての県民がお互いの人権を尊重しながら共に生きる社会」の実現を目指して、各種の人権施策に取り組んできました。
しかしながら依然として女性、子ども、高齢者、障害のある人などに対する人権侵害や同和問題など様々な人権問題が発生しています。(中略)これまでの人権施策の取組の成果や課題を踏まえ、「指針」策定後に制定された法令や計画との整合を図るとともに新たな人権課題へ対応するため、2012(平成24)年3月に「指針」の改定を行いました。
不交付は、いかなる理由を付けても上記の人権施策と矛盾があるというのが、我々の第一の主張である。朝鮮学校保護者の多くは、埼玉県に生まれ、埼玉県で育ち、埼玉県で働き、埼玉県に納税し、埼玉県民として暮らしている。その子どもたちも同様である。埼玉県庁に掲げられているポスターに「人権の重さはみんなおんなじ」とある(右図)。そのとおり、人権はその社会的出自や属性に関係なくすべての人たちが持つ普遍的なものである。そうした文脈からも、朝鮮民主主義人民共和国(以下「朝鮮」)の拉致問題等外交的な問題と子どもたちの教育を受ける権利を並立してはならないことは明らかである。
2.日本が批准した人権諸条約(人種差別撤廃条約や子どもの権利条約等)との矛盾
2つ目の問題は、日本が批准している人権諸条約との関連である。埼玉県はホームページに「児童の権利に関する条約について」という特設ページを設け、他県に先駆けて啓発活動に積極的に取り組んできた。そこには、原文を分かりやすく要約した「ばっすい」もあり、2条、28条の解説も掲載されている。
子供はみんな平等です。(第2条 差別の禁止)
世界にはたくさんの子供がいます。どの子供も、「心身の障害」「人権」「皮膚の色」「性」「宗教」「社会的出身」などによって差別されることはありません。
子供には学ぶ権利があります。(第28条 教育についての権利)
子供には、教育を受ける権利があります。世界中の子供たちが学校で学べるように国際協力が必要です。
児童の権利に関する条約について
田並議員は県議会(再質問)にて、「憲法98条2項に照らし合わせれば、条約は締結し交付された時点で国内的効力を持ち法的拘束力を持つ。したがって法的拘束力を持たないというのは、国際法上全く通用しない」と追及した。これに対して総務課は議員の指摘の通りであることを認めつつも「批准した条約の条項から直ちに補助金の交付を求めることができるという、具体的な権利が発生するものではない」と答えている。これは、問いの本質をはぐらかす"すり替え"の答弁であり、我が国が批准した条約の根本精神を頭から否定するものであり、埼玉県の掲げる施策とも矛盾している。こうした姿勢は条約の理念に従って各施策を進めるべき行政の役割を放棄する極めて問題の大きいものと言わざるをえない。埼玉県は法的拘束力を持たないものでも、これまで県民の生活向上のために様々な施策を講じてきた経緯がある。人種差別撤廃条約や、子どもの権利条約の精神が活きる社会へ向けて、行政の動きの再構築を強く望む。
3.財務処理の適正さに向けた学園側の誠実な対応と、ゴールを動かし「財政状況の不健全」をいつまでも理由とする県の対応【知事答弁①に対する見解】
そもそも、補助金停止の理由として掲げられたのが財務上の問題であった。これは朝鮮学校が借金(RCC-整理回収機構からの借り入れ)をしているという事実に基づいたものである。しかし、その後全額が返済され借金は完済に至っている。ところが解消された後には、県側は学園の経理その他の事務処理が適正を欠いていることを不交付の理由としてきた。
我々の調査によれば、学園はこれまで県の指摘に対して誠実に対応してきている。確かに学園の経理書類に事務処理上の不備(領収書の日付等)があったことは事実である。学園側もそれを認め、それを公認会計士の指導の下修正し再提出するなどの努力が続けられてきた。それに対して、知事も「学園が努力されていることは私も十分承知しております」と朝鮮学校の取り組みを認め、また総務課も「引き続き、学園の協力を仰ぎながら、しっかりと確認作業を進めてまいります」と答弁している。
しかし、現実には学園側が事務処理の問題や実行委員会(幼稚園の移設や老朽化した校舎の改築、耐震工事のために寄付を募った朝鮮学校OBや関係者によって設立された任意団体。任務を終えたためにすでに解散している)に関する説明をしても、重箱の隅をつつくような細かい指摘が続けられ、確認作業は遅々として進んでいない。
2018年6月4日、私たちは、学事課の関係職員と会い、財務に関して長時間の聞き取りを行ったが、そこでも「なるほどそういうわけか」、「この法令のここに依拠して問題があるのか」など納得のいく説明を受け取ることは出来なかった。
領収書の日付やすでに解散した実行委員会に関する疑義等は不交付の合理性を説明するために"後からとってつけられた性質を持つ"という批判を免れることはできない。
県側が予算執行において、行政の公平性をもとに、透明性を追求しながらその任に当たるのは当然であり、それを批判するものではない。しかし、私たちの調査ではそれが一般常識を超えて、必要以上に執拗に行われていると言わざるを得ない。
そもそも、県側が当初不交付の理由とした「財政状況が健全でないとき」(私立学校運営費補助金交付要綱(以下「要綱」)第5条⑵)というのは、当該条項の趣旨からして「経営破綻などにより支給した補助金が無駄になるおそれのある状態、すなわち返済の見込みがない借金を抱えている」ことを言うべきものである。これについては、前述のとおり、RCCからの仮差押えも第三者からの借金も解消しているから、学園が現在もこの条項に該当していると言うことはできない。また、現在県が理由としている事務処理上の問題というのは、「経理その他の事務処理が適正を欠いているとき」(要綱第5条⑶)を指すが、これについても、実行委員会が幼稚園移設、老朽化した校舎の改築、耐震工事のために募金を集め、それが工事業者等に支払われ、成果物として移設や校舎改築が完了し、それを誰もが目視することができる現状があるのであり、不明瞭な支出や財産の不当な逸出といったものは一切ない。補助金の不交付は、要綱上、第5条⑶に該当することに加え、「その状況が著しく、補助金交付の目的を有効に達成することができない」という極めて重大な場合に限ってできるとしているところ、学園において、不明瞭な支出や不当な逸出は一切なく、経理その他の事務処理がこの程度に至っているということはないのであるから、不交付の理由は全くない。
それにもかかわらず、県は、依然として「財政の健全化」がなされていないと詭弁を弄し、借金が解消された後は「経理その他事務処理の適正性」を持ち出し、しかも、些末でおよそ不交付と判断するほど重大とは言い難い事務処理上の指摘を繰り返し、一般常識に照らしても、また他の私立学校(各種学校を含む)に対するそれと比べても過剰で執拗な調査を続けている。
私たちは県のやり方は典型的な「ムービングゴールポスト※」であり、不交付の理由を無理やり作り、一見正当らしい理由を繕っていると判断する。
※特定の目標を達成すれば合格であるという約束を結びながら、現実には目標となるゴールポストを動かしてしまい、決して目標達成できないようにする嫌がらせ"harrassment"戦術
4.附帯決議の不交付の理由とする妥当性への疑義:子どもの人権と政治的問題を結びつける決議の問題性と、法的拘束力のなさ【知事答弁②についての見解】
4番目は、附帯決議の内容及び効力と、これを理由とする妥当性に関する疑義である。
補助金交付について知事は県民の理解を得られないと再三答弁している。もちろん県民の中には補助金支給に反対する方も存在するだろうが、果たして県民の総意はそこにあるのだろうか。むしろ、県内に住む全ての子どもたちが平等にかつ健やかに成長し発達することを願っている県民のほうが圧倒的ではないだろうか。
埼玉県議会の予算特別委員会は、平成24年3月に次のような附帯決議を出している。
『予算特別委員会附帯決議』
『予算特別委員会附帯決議』
埼玉朝鮮初中級学校に対する運営費補助金については、学校側が財務の健全化など県からの要請に対していまだ十分に応えきれていない。
そもそも朝鮮学校は北朝鮮の影響下にある朝鮮総連が中心となって設立した学校である。
その本国である北朝鮮は、日本人拉致問題を引き起こしたにもかかわらず、いまだに不誠実な対応をとり続けている。
このような状況下で県民の貴重な税金から埼玉朝鮮初中級学校に運営費補助金を支出することは、納税者である多くの県民の理解を得ることは到底できない。
そもそも、この附帯決議自体に極めて大きな問題がはらんでいることを見落としてはならない。すなわち、「拉致問題等」は、両政府が中心となって解決すべき外交的な問題であり、朝鮮学校ないし朝鮮学校に通う児童・生徒がこの問題を解決する術を持たないことは火を見るよりも明らかである。このような政治・外交問題と補助金の不交付を結び付ける当該附帯決議は、“本人の力では如何ともできない問題が解決するまで、朝鮮学校に通う子どもたちを子ども一般から除外し続けます"という宣言である。議会は、この決議が言わば「差別の宣言」であることを自覚しなければならない。
議会と緊張関係に立ち、県民に対する差別を抑止・解消する立場として、このような差別的な決議に断固反対するべきであるにもかかわらず、無批判にこれに従う県知事の態度もまた、差別そのものである。むしろ、県議会の決議を県民の総意であるかのように強調し、これを補助金不交付の正当化事由としていることに、議会以上の悪質性が備わっていると言わざるを得ない。
また、附帯決議は施行についての意見や希望などを表明する決議であり、法的拘束力を有しないものである。総務課は、国際条約機関の是正勧告に法的拘束力が無いことを不交付の理由として答弁したが、その論法で言うならば、上記附帯決議も法的拘束力はないのであるから、これを不交付の理由とする県の態度は二枚舌というほかない。
5.「不当な支配」という言葉の濫用:民族教育を受ける権利の保障と民族団体の果たしてきた役割の重要性【知事答弁③についての見解】
さらに、知事は「就学援助裁判で国が主張する朝鮮総連と朝鮮学校の関連性について懸念がある」ことを不交付の理由としている。
民族教育とはそもそも自分のルーツを知り、民族の言語、文化を学び、アイデンティティを確立する営みである。確かに朝鮮学校は設立の経緯から朝鮮総連との関係が存在する。戦後の歴史を鑑みると、行政的援助がない中、民族教育を行う上で朝鮮総連が重要な役割を果たしてきたことは事実である。人は誰しも"自分が何ものであるか"という問いを抜きにして、その人生をまっとうすることはできない。朝鮮高校無償化裁判における大阪地裁の判決文(2017年7月28日)にもある通り、在日朝鮮人の民族教育を行う朝鮮学校に在日朝鮮人の団体である朝鮮総連等が一定の援助をすること自体は何ら不自然なことではない。
また、教育基本法16条1項の「不当な支配」の禁止の主たる趣旨は、教育に対する行政権力による過度の介入を防ぐことにあり、行政がその文言を恣意的に用い、何ら不自然ではない朝鮮総連と朝鮮学校との関係をとらえて「不当な支配」であるとして学校の運営に介入しようとすることは本末転倒である。朝鮮高校無償化裁判における国側の「不当な支配」の禁止に関する主張は、説得力を欠くものである。不交付の理由として取ってつけたものであり、正当性があるとは到底認められない。
おわりに
有志の会は、拉致問題等、朝鮮との問題は、あくまで外交的に解決すべきであるとの立場である。日本政府は朝鮮に対して、圧力を継続することを基調にしている。そのことに関する是非は言及しないが、少なくても補助金停止と朝鮮への制裁措置を結びつけることは筋違いであると言わざるを得ない。地方行政が優先すべきことは、「県内に住むすべての子どもたちの成長と発達を支援すること」、「等しいものは等しく扱う」という基本的人権の原則を施策に反映させることではないだろうか。
拉致問題は早急に解決すべき、重大な人権問題であることは誰もが一致する。そして拉致が人権問題として看過できないというならば、私たちこそ人権重視の立場に立つべきである。県内に住み学ぶあらゆる子どもたちの教育と発達を保障すること、それこそが埼玉県が施策として掲げる人権の課題である。
いま埼玉県内だけでなく、全国各地でいじめによって多くの子どもたちが苦しみ、ときに尊い命が奪われている。いじめとは、弱い立場にある異なる他者を一方的に攻撃したり、排除(仲間はずれ)したりすることである。私たち大人は子どもたちの命と尊厳を守るために、いじめを見過ごすことなく、やめさせる立場にある。しかし、残念ながら、埼玉県による補助金停止は「朝鮮総連と関係のある学校に通う子ども」、「朝鮮半島にルーツを持つ子ども」は十分な教育を受けるための援助対象から除外してよい。すなわち排除(仲間はずれ)を合理化する"いじめ"にしか見えない。
極端な考えを持つ一部の人たちは「朝鮮学校はテロリストの養成所」など全く根拠のないデマを煽り、「日本から出て行け、祖国に帰ればいい」などのヘイトスピーチを続けている。埼玉県による補助金停止はこうした偏った考えを結果として後押しするものになっている。子どもたちの間で起きるいじめをやめさせるためにも、大人や社会によるいじめをなくさなければならないのは当然のことではないだろうか。
有志の会はこの間、何度も朝鮮学校を訪れそこで学ぶ子どもたちと接してきた。明るい笑顔、沈んだ顔、元気な挨拶、うつむく姿…どこにでもある子どもの姿がそこにはある。誰も生まれる場所や親を選ぶことはできない。にもかかわらずなぜ、朝鮮半島にルーツを持つというだけで、朝鮮と関わりが深い学校に通うという「理由」で十分な教育の機会を奪われてしまうのか。どんな理由をもってもそれを容認することは出来ない。繰り返しになるが、国と国の問題を、県内で生まれ育つ子どもたちの教育問題と結びつけてはならないのだ。
"誰もが共に生きる社会"の"誰も"とは、文字どおり、そこに例外を設けないものである。知事が言うように「子どもは家庭、学校、地域の3つで育てられ、この3つの居場所がバランスよく確保されていることが大事」、「子どもに対する政治の役割、責任は安心できる居場所やチャンスがより多い社会をつくっていくこと(再掲)」が何より大切である。「人権の重さはみんな同じ(埼玉県ポスター)」であり、そこに差異をフレームアップし段差を設けることは差別である。
そうしたことを容認すれば、社会は異なる他者と共生する豊かを失う。その先にあるのはあれこれの違いが対立に結びつき、人々が憎しみ合う殺伐とした社会である。そうした社会は誰にとっても生きにくい社会である。埼玉県は「すべての県民がお互いの人権を尊重しながら共に生きる社会(埼玉県人権施策推進指針)」を目指している。私たちもそうした社会の実現に向けて、あらゆる努力を払っていきたいと思う。上田清知事ならびに行政当局と共に歩みたいと思う。
そして埼玉県に住む方、一人でも多くがこの問題に関心を持っていただきたい。なぜなら、この問題は埼玉県がこれからどんな社会になっていくのか、そのあり方を問うものだからだ。私たち一人ひとりが分け隔てなく子どもたちを守り、よりよい未来の担い手としての子どもたちを育ていくこと、それは私たち大人の責任である。
有志の会は、県内外の多くの賛同人の方たちと連帯し、朝鮮学校補助金支給再開を強く求めるとともに、より多くの県民がこの問題に関心をもち、共に歩んでくれることを願う。
誰もが共に生きる社会を目指し、埼玉朝鮮学校補助金支給再開を求める有志の会(有志の会)
2018年7月30日