さいたま市に「私立幼稚園園児教育費助成金」の増額を要望しました

2019年10月に始まった幼児教育・保育無償化(幼保無償化)政策において、埼玉朝鮮幼稚園を含む外国人学校の幼稚園はその対象外とされました。幼保無償化の対象外施設に関しても実質的な無償化措置がとられていますが、朝鮮幼稚園は含まれていません。朝鮮幼稚園保護者にはさいたま市から独自に私立幼稚園園児教育助成金が支給されていますがその額は極めて少額で、保護者の負担の重さを十分に軽減できるものとはいえません。

「有志の会」では、幼保無償化における差別的措置が行政によって少しでも是正されることを求めて、さいたま市に私立幼稚園教育費助成金の増額を求める要望書を提出しました。


さいたま市市長 清水勇人様

『さいたま市私立幼稚園園児教育費助成金』の
増額を求める要請書

私たちは、埼玉県が様々な違いのある人びとの共生を支える地域であることを願い、集まった有志の会です。

さいたま市には埼玉朝鮮幼稚園(埼玉朝鮮学校幼稚部)があり、朝鮮半島にルーツをもつ多くの子どもたちが、朝鮮半島の言語や文化に接しながら日々成長しています。自らのルーツの言語や文化を学ぶための民族教育を保障することは、様々な文化的背景をもった人達が、互いの違いを尊重し合いながら共に生きていくために必要不可欠であると考えます。私たちは、埼玉朝鮮幼稚園に子どもを通わせる保護者が、他の幼児教育や保育を行う施設に子どもを通わせる保護者に比べて、極めて大きな負担を強いられていることを大きな問題であると考え、それを解消するため、さいたま市私立幼稚園園児教育費助成金を早急に増額することを求めます。

2019年10月から幼児教育・保育無償化(以下、幼保無償化と略する)が開始されましたが、埼玉朝鮮幼稚園を含む外国人学校の幼稚園は、その対象外とされました。幼保無償化の対象外の認可外保育施設に関しては、実質的に無償化措置がとられていますが、朝鮮幼稚園の保護者は、この措置の対象からも除外されています。

朝鮮幼稚園の保護者は、さいたま市から私立幼稚園園児教育助成金を支給されていますが、その額は年額4万円にとどまります。このため、朝鮮幼稚園の保護者は、無償化の対象となる保育園・幼稚園の保護者や、実質的に無償化されている認可外保育施設の保護者に比べて、極めて重い負担を強いられています。

さいたま市の「令和2年 国の施策・予算に対する要望」においては、「1.認可外保育施設や幼稚園の預かり保育の無償化にあたっては、認可保育所との間で利用者の費用負担の不均衡が生じないようにすること」と述べられており、さいたま市も、市内の外国人学校幼稚園園児の保護者の費用負担が重いことを認識しています。すでに県内では、志木市が、ほかの自治体に先駆ける形で、幼保無償化の対象外の施設に対して保育料の全額補助を実現しています。さいたま市も、同様の措置をとることは十分に可能なはずです。

さいたま市は、2014年3月の『国際化推進基本計画』において、「外国人市民もくらしやすいまちづくりを目指し、互いの文化や習慣のちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の一員として共に生活し環境を共有する多文化共生の社会づくりを推進します」と宣言しています。この基本計画とそこに示されている理念を私たちは支持します。

これを踏まえれば、外国にルーツのある子どもたちや保護者が民族教育を求める場合にも、他の市民と対等な援助がなされなければなりません。にもかかわらず、朝鮮幼稚園への公的補助は極めて低い水準のままとなっています。

このようなさいたま市の姿勢は、「朝鮮幼稚園に通う子どもたちやその保護者をこの社会の対等なメンバーとして認識していない」というメッセージになっているのではないでしょうか。

このようなメッセージはその対象となった子どもたちやその保護者の自尊心を傷つけるものです。また、そればかりでなく、上記『国際化推進基本計画』の理念とはまったく逆の効果を生み出すものです。同時にそれは「朝鮮半島にルーツを持つ人は不当な扱いをされても仕方がないのだ」という世論を生み、差別や排外主義に力を与えてしまいます。ヘイトスピーチはその典型です。『国際化推進基本計画』の理念を尊重し、それに反するメッセージを発することのないよう、さいたま市においては、外国にルーツのある子どもたちや保護者が民族教育を求める場合にも、他の市民と対等な援助がなされなければなりません。しかるに、上記の通り、朝鮮幼稚園に通う子どもたちやその保護者は、他の子どもや保護者に認められる援助を得られず、結果として、行政の活動によって大きな格差が生じることになってしまっています。

さいたま市は、2001年に誕生して以来、一貫して私立幼稚園園児教育費助成金として朝鮮幼稚園を含む外国人学校の幼稚園児の保護者にも補助金を支給してきました。また、2019年10月から始まった幼児教育・保育無償化に関する取り組みにおいても、国に先駆ける形で利用料の補助を独自財源で実施しています。私たちも、このような多文化共生の実現に向けて、民族教育を支援しようという市の一貫した姿勢を高く評価します。この姿勢の延長で、すべての子どもたちが差別なく幼児教育・保育を受けるための必要な措置を強く求めます。

2020年9月22日

誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会
■共同代表
磯田三津子(埼玉大学准教授)
猪瀬浩平(明治学院大学教授・NPO法人のらんど代表理事)
内田淳(さいたま市民活動サポートセンター利用者の会 共同代表)
小田原琳(東京外国語大学准教授)
中川律(埼玉大学准教授)
渡辺雅之(大東文化大学教授)

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