私たちは、さいたま市がヘイトスピーチ(差別扇動表現)に注意を払い、備蓄マスク配布に、埼玉 朝鮮初級中級学校・幼稚部を排除しないことを強く求めます。

2020年3月13日

申入書

さいたま市長 清水勇人様
さいたま市子ども未来局長 金子博志様
関係各部局 職員様

誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会

私たちは、さいたま市がヘイトスピーチ(差別扇動表現)に注意を払い、備蓄マスク配布に、埼玉朝鮮初級中級学校・幼稚部を排除しないことを強く求めます。

新型コロナウイルスの感染拡大によって全国的にマスク不足が問題となっています。さいたま市は子ども向けの施設や高齢者施設のスタッフ用に備蓄していた 18 万枚のマスクを提供する対応をとりました。住民の命と健康を守る役割をもつ自治体として、優れた取り組みだと思います。

しかし配布対象に埼玉朝鮮初級中級学校の幼稚部(以下、朝鮮学校幼稚部)は含まれていませんでした。この件は全国紙やテレビニュースでも報道され、さいたま市の対応が注視されています。とりわけ、朝鮮学校幼稚部への支給排除の理由として「マスク転売の恐れがあるから」という市職員の発言は、撤回されたとはいえ、到底看過できない重大な問題を含んでいます。これは、ヘイトスピーチ解消法の趣旨(以下)、また法務省がヘイトスピーチの具体的例示としてあげた三つのうちの「(3)特定の国や地域の出身である人を,著しく見下すような内容のもの」に該当します

我が国においては、近年、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、適法に居住するその出身者又はその子孫を、我が国の地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動が行われ、その出身者又はその子孫が多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている。
もとより、このような不当な差別的言動はあってはならず、こうした事態をこのまま看過することは、国際社会において我が国の占める地位に照らしても、ふさわしいものではない。

http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html

市長は本年 2 月県議会定例会において施政方針演説を行い、令和 2 年度の市政運営の基本的な考え方や主要な施策などについての説明を行い、以下のように述べています。

・「子育て楽しいさいたま市」を実現するため、多様な保育の受け皿の確保や幼児教育・保育の無償化への対応など、乳幼児期から青少年期に至るまで、切れ目のない支援のより一層の充実を図りました。
・2030 年を期限とし、持続可能な成長・発展を目指す「SDGs」の取組は、本市が「運命の10 年」になすべき取組と道のりを同じくするものであり、また「誰一人取り残さない」という理念は、本市が目指す「市民一人ひとりがしあわせを実感できる“絆”で結ばれたさいたま市」、「誰もが住んでいることを誇りに思えるさいたま市」と一致しているからであります。

仮に、各種学校が市の指導監督の及ぶ施設ではないにしても、朝鮮学校幼稚部に通う子どもたちの大半はさいたま市で生まれ、さいたま市で育っています。その保護者も同様です。「切れ目のない支援」や、市が目指す「市民一人ひとりがしあわせを実感できる“絆”で結ばれたさいたま市」の“市民”の対象に朝鮮学校幼稚部の子どもたちと保護者は含まれていないと言わざるを得ません。そもそも、今回のマスクの配布は、ウイルスの感染拡大を防止するための措置であり、市の指導監督権限の有無で区別すべきものではありません(市管轄ではない私立幼稚園へマスクは配布対象)。

地方自治体にはそこに属するすべての地域や人に対しさまざまな行政サービスを提供する義務があり、自治体の一番の存在意義は、そこに住む人々の生活を支えることに他なりません。にもかかわらず、「意図的ではなかった」「指導監督外」「無償化対象外」などあれこれの理由を付けて、朝鮮学校幼稚部を備蓄マスク配布から除外するということは、法律で禁止された差別にあたるという批判を免れることはできないでしょう。

清水市長、市職員、管轄部署のみなさん。

どうか当事者の立場に立って考えてみてください。幼稚園児が自分の子どもや孫であったらと想像してみてください。自分で選ぶことのできない出自や属性によって、他の市民が受けているサービスから除外されているその気持ちを。朴園長が述べた「1 箱が欲しいのではない。子どもの命を平等に扱ってほしい」という声を(毎日新聞 2020 年 3 月 11 日)。

また、市職員のくだんの発言は、単に不適切と言うよりは、結果として地域社会に憎悪と差別の種を撒くものです。既に、この問題を報じた SNS やニュース欄のコメントには「文句があるならお帰り頂けばいいだけです」、「マスクが欲しいなら拉致被害者と交換しろ」、「朝鮮保育園にマスクを支給すると本国へ送り軍事転用されるから支給反対」などのヘイトスピーチやデマが大量に拡散されています。市職員によって発せられた不用意な差別発言に危機感を持って対処してください。

私たちは市当局が悪意や意図を持って朝鮮学校幼稚部を除外したとは考えていません。市側に意図があったかどうかとは無関係に、配布除外の措置そのものが、「朝鮮半島にルーツを持つ人たちは排除されてもしかたがないんだ」という世論を広めてしてしまう恐ろしさ、ヘイトスピーチ(差別扇動表現)拡大につながる危険に対する意識を持っていただきたく思います。

さいたま市は、法務省が提起した「第71回人権週間」に積極的に呼応し様々な取り組みを行い、さいたま市男女共同参画推進センター等における日常的な人権推進活動を行っていることを市民は知っています。人々の生命や健康が脅かされかねない緊急事態だからこそ、さいたま市は、そこに暮らすあらゆる人々の生命や健康の保護を断固として守ることを示し、「運命の 10 年」になすべき「誰一人取り残さない」方針に相応しい行政を全うしてください。

私たちは、「市職員の発言がヘイトスピーチに該当する差別発言であったことを認め、朝鮮学校幼稚部に対する真摯な謝罪を行い」、「一刻の猶予も遅滞もなく埼玉朝鮮学校幼稚部に備蓄マスクを配布すること」を強く求めます。

有志の会・共同代表
 磯田三津子(埼玉大学准教授)
 猪瀬浩平(明治学院大学教授・NPO 法人のらんど代表理事)
 内田淳(さいたま市民活動サポートセンター利用者の会共同代表)
 小田原琳(東京外国語大学准教授)
 中川律(埼玉大学准教授)
 渡辺雅之(大東文化大学教授)

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